研修で伝えてきた「シングルタスクが早い」
TOCの研修では、よく「シングルタスクが大事です」とお伝えしてきました。
いくつもの仕事を少しずつ進めるより、1つずつ終わらせていくほうが、結局は早く仕事が終わる、という話です。
TOCの手法「クリティカルチェーン」でも、複数の仕事を行ったり来たりする「悪いマルチタスク」は、プロジェクトが遅れる大きな原因のひとつとされています。
たとえば、10日ずつかかる仕事A・B・Cがあるとします。
1つずつ進めれば、Aは10日目、Bは20日目、Cは30日目に終わります。
ところが3つを少しずつ交互に進めると、どれも30日目近くまで終わりません。
しかも、切り替えるたびに「どこまでやったっけ」と思い出す時間が加わるので、実際にはもっと遅れます。
早く終わるはずだったAのお客様まで、待たせてしまうんです。

研究データも、シングルタスクに軍配
これは、研修の中だけの話ではありません。心理学の研究でも、同じような結果が出ています。
1つ目は、「切り替えには時間がかかる」という研究です。
ミシガン大学のマイヤー教授らは2001年、仕事を切り替えながら進める実験で、切り替えのたびに時間のロスが生まれ、仕事が複雑なほどロスが大きくなることを示しました。
マイヤー教授は、こうした短い頭の切り替えの積み重ねが、生産的な時間の最大40%ほどを奪いうるとも述べています。
2つ目は、「前の仕事が頭に残る」という研究です。
ワシントン大学のリロイ准教授は2009年、仕事を途中で切り替えると、前の仕事に注意の一部が残ったままになり、次の仕事の出来が落ちることを示しました。これを「注意残余(アテンション・レジデュー)」と呼んでいます。
3つ目は、「得意だと思っている人ほど、切り替えが苦手」という研究です。
スタンフォード大学のオフィール氏らは2009年、ふだんから多くのメディアを同時に使う人ほど、切り替えのテストの成績が悪かったと報告しています。
「やっていない方の仕事のことを、考えずにいられなかった」というのが研究者の見立てです。
そして、2つのことを同時にこなしても成績が落ちない「スーパータスカー」は、ユタ大学の研究で、200人中およそ2.5%、40人に1人ほどだったそうです。
自分はマルチタスクが得意だ、という人でも、タスクを移る一瞬に集中が途切れている。
やはり、シングルタスクのほうが良いということになります。

それでも、私はマルチタスクをしてしまう
ところが、です。
私自身は性格上、マルチタスクをしてもあまり気にならないタイプです。
だから、そうは言いながらも、ついマルチタスクをやってしまいがちなんですよね。
それでも、重要な局面はあります。
特に、お客様に早く届けたいときは、そこに集中しないと、どんどん遅れていく。
これは、何度も実感してきた事実です。
AIが、裏方で同時に動いてくれる時代
さて、ここで話が変わります。
いまは1人で作業しているときにも、AIが裏方で、私の仕事の代わりに動いてくれるようになりました。
しかも、いくつものセッションを並べて同時に動かしても、スムーズに作業が進みます。
私はいま、監督役として「AIの親方セッション」を置いています。クライアントさんには「親方チャット」とお伝えしています。
親方セッションからサブエージェント(専門の小さなAI)を動かしたり、実際の作業はClaude Codeにやらせたり。
そうした「AIが働く環境(ハーネス)」をつくる指導をしていますし、自分でも実践しています。

監督するのは、人間
けれども、それを監督するのは人間です。
AIがすべて自律して回り続ける。いわば「ループエンジニアリング」のような世界も語られています。
ただ、私の環境ではまだそこまで至っていないと感じますし、もう少し時間が必要だと思っています。
どこかで必ず、人間の監督が入る場面があるんです。
そうして私が監督として、セッションを1つ、2つ、3つと見守りながら同時に進められるようになったとき。
これが、「積極的マルチタスク」なのではないかと感じています。
人間と違って、AIは同時にいくつものタスクをこなせるからです。

実践して分かった、2つのマルチタスクの違い
ただし、実際にやってみて分かった注意点があります。
次の2つは、まったくの別物です。
1つ目は、自分がAIの監督に徹して、複数のセッションを並行して回させること。
2つ目は、自分自身も別の作業をしながら、並行してAIともマルチタスクをすること。
1つ目は、うまくいきます。
私の仕事は「見守って、判断する」こと、ただ1つ。手を動かすのはAIたちです。
人間の側から見れば、実はシングルタスクなんです。
ところが2つ目のように、自分も違う仕事を抱え込んでしまうと、話が変わります。
先ほどの研究のとおり、マルチタスクの悪影響が出て、集中が途切れる。
AIから上がってきた確認に答えようとして、自分が何をしていたのか分からなくなる。
そんなことが、とても多いんです。

見極めと区別を、はっきりと
AIは同時にいくつも動ける。でも、人間の頭は同時に1つしか深く考えられない。
この前提は、AIの時代になっても変わりません。
だから、AIを並べて動かすときほど、自分の役割をはっきりさせておくことが大切だと感じています。
いま自分は「監督」に徹しているのか。それとも、自分の作業もしているのか。
この見極めと区別を、明確にしておかなければいけません。
あなたがAIと一緒に働くとき、あなた自身は、何のタスクを担当していますか?
※参考:Rubinstein, Meyer & Evans (2001) Journal of Experimental Psychology: Human Perception and Performance/Leroy (2009) Organizational Behavior and Human Decision Processes/Ophir, Nass & Wagner (2009) PNAS/Watson & Strayer (2010) Psychonomic Bulletin & Review。「最大40%」はマイヤー教授が米国心理学会(APA)の解説で示した目安で、実験で一律に測られた数値ではありません。


