AI時代の「積極的マルチタスク」 ― 人はシングルタスク、AIは同時並行

AI時代の「積極的マルチタスク」 ― 人はシングルタスク、AIは同時並行
この記事の結論
人のマルチタスクは、切り替えのたびに集中が途切れ、仕事を遅らせます。一方、AIは同時に動ける。人は「監督」の1役に徹してAIのセッションを並行で回す――これが積極的マルチタスク。自分も別の作業を抱え込むと、人間側の悪いマルチタスクに戻ってしまいます。
この記事でわかること
  • 1つずつ終わらせるほうが、結局早い。切り替えのロスや「注意残余」など、研究データもシングルタスクを支持している
  • AIは同時にいくつも動ける。人が監督に徹してセッションを並行で回せば、人間側はシングルタスクのまま「積極的マルチタスク」ができる
  • 自分も別の作業をしながらAIを回すのは別物。いま自分は監督に徹しているか、見極めと区別をはっきりさせる
目次

研修で伝えてきた「シングルタスクが早い」

TOCの研修では、よく「シングルタスクが大事です」とお伝えしてきました。
いくつもの仕事を少しずつ進めるより、1つずつ終わらせていくほうが、結局は早く仕事が終わる、という話です。

TOCの手法「クリティカルチェーン」でも、複数の仕事を行ったり来たりする「悪いマルチタスク」は、プロジェクトが遅れる大きな原因のひとつとされています。

たとえば、10日ずつかかる仕事A・B・Cがあるとします。
1つずつ進めれば、Aは10日目、Bは20日目、Cは30日目に終わります。
ところが3つを少しずつ交互に進めると、どれも30日目近くまで終わりません。
しかも、切り替えるたびに「どこまでやったっけ」と思い出す時間が加わるので、実際にはもっと遅れます。
早く終わるはずだったAのお客様まで、待たせてしまうんです。

10日ずつかかる仕事A・B・Cを、1つずつ進めるとAは10日目に届けられるが、交互に進めると切り替えのロスも加わり、どれも30日目近くまで終わらないことを示した図

研究データも、シングルタスクに軍配

これは、研修の中だけの話ではありません。心理学の研究でも、同じような結果が出ています。

1つ目は、「切り替えには時間がかかる」という研究です。
ミシガン大学のマイヤー教授らは2001年、仕事を切り替えながら進める実験で、切り替えのたびに時間のロスが生まれ、仕事が複雑なほどロスが大きくなることを示しました。
マイヤー教授は、こうした短い頭の切り替えの積み重ねが、生産的な時間の最大40%ほどを奪いうるとも述べています。

2つ目は、「前の仕事が頭に残る」という研究です。
ワシントン大学のリロイ准教授は2009年、仕事を途中で切り替えると、前の仕事に注意の一部が残ったままになり、次の仕事の出来が落ちることを示しました。これを「注意残余(アテンション・レジデュー)」と呼んでいます。

3つ目は、「得意だと思っている人ほど、切り替えが苦手」という研究です。
スタンフォード大学のオフィール氏らは2009年、ふだんから多くのメディアを同時に使う人ほど、切り替えのテストの成績が悪かったと報告しています。
「やっていない方の仕事のことを、考えずにいられなかった」というのが研究者の見立てです。

そして、2つのことを同時にこなしても成績が落ちない「スーパータスカー」は、ユタ大学の研究で、200人中およそ2.5%、40人に1人ほどだったそうです。

自分はマルチタスクが得意だ、という人でも、タスクを移る一瞬に集中が途切れている。
やはり、シングルタスクのほうが良いということになります。

マルチタスクに関する4つの研究(切り替えのロス、注意残余、得意だと思う人ほど苦手、スーパータスカーは2.5%)をまとめた図

それでも、私はマルチタスクをしてしまう

ところが、です。
私自身は性格上、マルチタスクをしてもあまり気にならないタイプです。
だから、そうは言いながらも、ついマルチタスクをやってしまいがちなんですよね。

それでも、重要な局面はあります。
特に、お客様に早く届けたいときは、そこに集中しないと、どんどん遅れていく。
これは、何度も実感してきた事実です。

AIが、裏方で同時に動いてくれる時代

さて、ここで話が変わります。

いまは1人で作業しているときにも、AIが裏方で、私の仕事の代わりに動いてくれるようになりました。
しかも、いくつものセッションを並べて同時に動かしても、スムーズに作業が進みます。

私はいま、監督役として「AIの親方セッション」を置いています。クライアントさんには「親方チャット」とお伝えしています。
親方セッションからサブエージェント(専門の小さなAI)を動かしたり、実際の作業はClaude Codeにやらせたり。
そうした「AIが働く環境(ハーネス)」をつくる指導をしていますし、自分でも実践しています。

人間(監督)がAIの親方セッションに頼み、親方セッションがサブエージェントや複数のClaude Codeに作業を割り振って並行して進める仕組みの図

監督するのは、人間

けれども、それを監督するのは人間です。

AIがすべて自律して回り続ける。いわば「ループエンジニアリング」のような世界も語られています。
ただ、私の環境ではまだそこまで至っていないと感じますし、もう少し時間が必要だと思っています。
どこかで必ず、人間の監督が入る場面があるんです。

そうして私が監督として、セッションを1つ、2つ、3つと見守りながら同時に進められるようになったとき。
これが、「積極的マルチタスク」なのではないかと感じています。
人間と違って、AIは同時にいくつものタスクをこなせるからです。

AIだけで自律ループを回す将来と、いま人が監督として入る現状を比べ、セッション1から3それぞれでAIが作業し人が確認・判断して次へ進む「積極的マルチタスク」を示した図

実践して分かった、2つのマルチタスクの違い

ただし、実際にやってみて分かった注意点があります。
次の2つは、まったくの別物です。

1つ目は、自分がAIの監督に徹して、複数のセッションを並行して回させること。
2つ目は、自分自身も別の作業をしながら、並行してAIともマルチタスクをすること。

1つ目は、うまくいきます。
私の仕事は「見守って、判断する」こと、ただ1つ。手を動かすのはAIたちです。
人間の側から見れば、実はシングルタスクなんです。

ところが2つ目のように、自分も違う仕事を抱え込んでしまうと、話が変わります。
先ほどの研究のとおり、マルチタスクの悪影響が出て、集中が途切れる。
AIから上がってきた確認に答えようとして、自分が何をしていたのか分からなくなる。
そんなことが、とても多いんです。

監督に徹してAIのセッションを並行で回す場合はうまくいき、自分も別の作業をしながらAIともマルチタスクをすると悪影響が出ることを比べた図

見極めと区別を、はっきりと

AIは同時にいくつも動ける。でも、人間の頭は同時に1つしか深く考えられない。
この前提は、AIの時代になっても変わりません。

だから、AIを並べて動かすときほど、自分の役割をはっきりさせておくことが大切だと感じています。
いま自分は「監督」に徹しているのか。それとも、自分の作業もしているのか。
この見極めと区別を、明確にしておかなければいけません。

あなたがAIと一緒に働くとき、あなた自身は、何のタスクを担当していますか?

※参考:Rubinstein, Meyer & Evans (2001) Journal of Experimental Psychology: Human Perception and Performance/Leroy (2009) Organizational Behavior and Human Decision Processes/Ophir, Nass & Wagner (2009) PNAS/Watson & Strayer (2010) Psychonomic Bulletin & Review。「最大40%」はマイヤー教授が米国心理学会(APA)の解説で示した目安で、実験で一律に測られた数値ではありません。

※AIの進化はとても速いため、少し前のコラムでは前提が変わっていたり、今では当てはまらない内容になっていたりすることがあります。すべての記事を常に最新に保つのは難しいため、取り入れるときは最新の情報もあわせて確認してください。ここでは、私自身が実際に試して効果があったことを、その都度お届けしていきます。なお、TOC(制約理論)の基本の考え方は、AIが進化しても大きくは変わりません。

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