AIの「余計なリンゴ磨き」 ― まじめな人もAIも、磨きすぎてしまう

AIの「余計なリンゴ磨き」(ピカピカに磨かれたリンゴのイラスト)
この記事の結論
まじめな人もAIも、悪気なく「余計なリンゴ磨き」をしてしまいます。特に制約の所での磨きすぎは、全体の遅れに直結します。合格ライン・往復の上限・かける量の目安を先に決め、じっくり磨くのは全体に効く所だけにしましょう。
この記事でわかること
  • 「余計なリンゴ磨き」とパーキンソンの法則
  • まじめな人のやり直しが、出荷を遅らせた理由
  • AIの磨きすぎを防ぐ、4つのルール
目次

お盆の、リンゴ磨き

小さいころ、お盆の時期になると、家族みんなでやる仕事がいろいろありました。
仏壇の掃除をしたり、お供えの準備をしたり。

私の担当は、果物を磨いてきれいにして、飾ることでした。
布でひたすらリンゴを磨いていると、驚くほどピカピカに光り出すんです。
「これはすごいな」と、夢中になって磨いていました。

集中すると、面白さもある。
ほかの家族がそれぞれの仕事を進めている間も、私はずっとリンゴを磨いていました。
決して怠けていたわけではありません。
いいものに仕上げようとしていた。悪気は、まったくなかったんです。

仕事の中にも、リンゴ磨きはある

これと同じことが、仕事の中でも起きます。
私はこれを、「余計なリンゴ磨き」と呼んでいます。

TOC(制約理論)の、プロジェクトを早く終わらせる手法「クリティカルチェーン」では、こうした時間のムダが起きる理由として「パーキンソンの法則」がよく挙げられます。
もとは1955年、イギリスの歴史学者パーキンソンが雑誌に書いた風刺のエッセイで、「仕事は、完成のために与えられた時間をすべて満たすまで膨らむ」という言葉で知られています。

できたからといって、そこでやめるわけではない。
もう一度見直し、もう一度手を入れて、与えられた時間をめいっぱい使ってしまう。
しかも早く終わっても、「終わりました」とはなかなか言わないものです。
次から見積もりを削られたり、仕事を次々に振られたりするのが心配になるからです。

ここで大事なのは、本人に悪気がないということです。
むしろ、責任感が強くて、まじめな人ほど磨いてしまう。

印刷担当の、まじめなやり直し

以前、法人として何人ものスタッフと仕事をしていたころのことです。
ある方に、印刷業務の担当を専門職としてお願いしました。

彼女はとても責任感が強い人でした。
少しでも変な印刷がないか、エラーを見つけては何度も何度もやり直してくれました。

ところが、そうすると、ほかの工程がすべて仕上がっていても、印刷のところで止まってしまう。
結果として、出荷が遅れるようになっていきました。

TOCの目で見ると、ここが仕事全体の制約になっていたんです。
いちばん詰まっている所でのやり直しは、そのまま全体の遅れになります。

しかも、「どこまでできていれば合格か」は、彼女の頭の中にしかありませんでした。
その人にしかできない仕事がブラックボックスになると、本人に悪気がなくても、業務は滞ってしまうんですよね。

制約での磨きすぎ:印刷の所でやり直しが続き、ほかの工程が仕上がっていても出荷が遅れる。原因は合格ラインが本人の頭の中にしかなかったこと

AIにも、リンゴ磨きが起きていた

そして今、同じことをAIで感じています。

私はいま、AIに仕事を任せるための環境づくりに取り組んでいます。
作業をいくつかの専門のAI(サブエージェント)に分けてみたり、チャットと作業用のセッションに役割を分担させたりしています。

すると、お互いに気づけないミスや設計の甘さを指摘し合い、切磋琢磨しながら仕上げてくれます。
出来上がるものには、とても満足しています。

ただ、ある時ふと気づいたことがあります。
確かにとても良い。でも、そのやり取りの往復に、けっこう時間がかかっているんです。

これは、AIの「余計なリンゴ磨き」ではないか。
そう感じました。

もちろんAIは、人のように「早く終わると次を振られる」と心配して磨いているわけではありません。
あちこちを見返し、確かめながら進める。その丁寧さが、結果として往復を増やしているのだと思います。

AIは、どんどん賢くなっています。
Claudeの新しいモデル(Fable 5など)のように、全体をよく考える力のあるAIに任せるほど、考える時間は長くなり、使う量(トークン)も増えていきます。

AI同士の見直しの往復:ルールを決めずに任せると往復が続き、合格ラインと往復2回までを決めると完成して次の仕事へ進める

「どこまでやるか」を先に決める

人の場合も、AIの場合も、解決の糸口は同じでした。
「どこまでやれば合格か」「どこから先はやらないか」を、先に決めておくことです。

私がいま、AIに仕事を任せるときに決めているのは、次の4つです。

1つ目。合格ラインを言葉にする。何ができていれば完成とするのか。
2つ目。見直しの往復は何回までか、上限を決める。
3つ目。かけてよい時間や量の目安を決める。
4つ目。じっくり磨くのは、全体の流れに効く大事な所だけにする。

4つ目は、TOCの考え方そのものです。
制約に効く所は丁寧に。それ以外は「十分に良い」で先へ進める。
すべてをピカピカに磨く必要はないんです。

余計なリンゴ磨きを防ぐ4つのルール:合格ラインを言葉にする、往復の上限を決める、かける量の目安を決める、磨くのは大事な所だけ

磨く楽しさは、残しておきたい

リンゴを磨いていたあのころの私も、印刷担当の彼女も、そしていまのAIも。
みんな、いいものに仕上げようとしていただけでした。

だからこそ、「どこまで磨くか」を決めるのは、任せる側の仕事なんだと思います。
磨く楽しさや丁寧さは、大事な所でこそ生かしたいですね。

あなたの職場では、誰かが、あるいはAIが、余計なリンゴを磨いていませんか?

※パーキンソンの法則は、C.N.パーキンソンが1955年に英誌『エコノミスト』に寄せた風刺エッセイが元で、のちに著書『パーキンソンの法則』にまとめられました。心理学の実験で確かめられた法則ではなく、経験則として広く使われています。

※AIの進化はとても速いため、少し前のコラムでは前提が変わっていたり、今では当てはまらない内容になっていたりすることがあります。すべての記事を常に最新に保つのは難しいため、取り入れるときは最新の情報もあわせて確認してください。ここでは、私自身が実際に試して効果があったことを、その都度お届けしていきます。なお、TOC(制約理論)の基本の考え方は、AIが進化しても大きくは変わりません。

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