「作って満足」のアプリが、現場の仕事を1つ増やしている

「作って満足」のアプリが、現場の仕事を1つ増やしている(スタッフの仕事に「アプリに入力」が+1)
この記事の結論
作業単体が速くなっても、スタッフの入力や確認が1つ増えれば、業務全体は流れません。アプリを現場に入れる前に、制約に効くか・ワンアクションでできるか・見る数字は3つ以内か・誰が結果を見て決めるかを確かめることが大切です。
この記事でわかること
  • 「作って満足」のアプリが、現場で形骸化していく理由
  • 15年前のkintone導入で、ホワイトボードの方が効果があった話
  • アプリを現場に入れる前に確かめたい、4つの問い
目次

新しいAIが出るたびに、何か作っている

仕事柄、新しいAIや新機能が出るたびに、いろいろなものを作らせています。
何ができるのか。どんなことが実現できて、それをクライアントにどう伝えられるのか。
それを確かめるためです。
アプリも、同じように作らせています。

実は、これは私だけの話ではありません。
クライアントの中にも、「こういうこともできる、ああいうこともできるなら、これを作ってみよう」と、どんどんアプリ作りに精を出す方がいます。

「これができるようになった」
「こんなことは、どうやればいいんだろう」

作れるようになると、あれもこれも試したくなる。
これはもう、人間の性なんだと思います。
そして私とは別に、実際の仕事に入れていくんですよね。

「すごいですね!」の、その後

作ったアプリを実務に投入して、スタッフにも「こういうのを作ったよ」と得意満面で見せる。
スタッフも「すごいですね、こんなことができるようになったんですか!」と驚いて、褒めてくれたりします。

では、実際に業務が動き出したらどうなるでしょうか。

実は、スタッフのやるべきことが1つ増えているんです。
アプリなので、パソコンを開かないと操作できない。
その作業だけを見れば、確かに速くなります。
でもTOC(制約理論)の目で見ると、業務全体がスムーズに流れているかといえば、決してそうではありません。

作業は速くなったのに、全体は流れない

TOCでは、仕事全体の速さは、いちばん詰まっている所(制約)で決まると考えます。
ほかの所をいくら速くしても、全体は速くなりません。

さらに困るのは、新しいアプリが「新しい作業」を連れてくることです。
入力する、確認する、数字を見る。
その手間が、もともと忙しい現場のスタッフに乗ってしまう。
すると、制約がさらに詰まってしまうことさえあります。

作業は速くなったのに全体は流れない:制約にいるスタッフに、アプリへの入力・確認が1つ増える

増えるのは、余計な分析だったり、過剰な数値管理だったり。
しかも、その分析結果が出ても、作った社長自身はあまり見ない。
「作って満足」で終わってしまうんです。

スタッフからすれば、誰も見ない数字を、毎日入力している状態です。
次第にやりたがらなくなり、最後は「やらなくてもいいもの」として形骸化していきます。

15年前、私も同じことをしていた

思い返すと、私自身も通ってきた道でした。

15年ほど前、ネットの似顔絵ショップを営んでいて、スタッフは15人ほどいました。
何かいいツールはないかと探していたころ、kintoneが発売されました。
Excelのようにノーコードで、こんなにいろいろ作れるのかと、発売されてすぐに契約。
業務のアプリを、どんどん作っていきました。

あちこちで細かな管理ができるようになって、「こんなに素晴らしいものがあるのか」と思っていたんです。

ところが、案の定、スタッフから不満が出てきました。
といっても、面と向かって言われたわけではありません。
いつの間にか、やらなくなっていた。そんな感じでした。

最終的にリーダーたちと話して出た答えは、意外なものでした。
「ホワイトボードで、目に見える状態にした方がはるかに効果があった」

「作って満足」のアプリが形骸化するまでの5段階と、15年前のkintone導入でホワイトボードの方が効果があった話

何がいけなかったのか

今振り返ると、原因は2つあったと思います。

1つ目は、ワンアクションでできなかったこと。
いちいちパソコンを開いて、そのアプリを開かないと記録できない。
ホワイトボードなら、通りがかりにマグネットを動かすだけです。
現場の人にとって、この差はとても大きいんですよね。

2つ目は、管理するものが多すぎたこと。
TOCでは、見るところを絞り込みます。
たとえば生産管理の手法であるDBR(ドラム・バッファー・ロープ)では、見るのは「仕事を入れる所」「制約」「出す所」の3か所で十分とされます。
あれもこれも管理できるようになったことで、かえって大事な所が見えなくなっていました。

kintoneが悪かったわけではありません。
道具を入れる前に、「全体の流れのどこに効かせるのか」を考えていなかった。
それが私の失敗でした。

AIが管理してくれる時代でも、同じことが起きる

今は、AIが分析も管理もしてくれます。
あのころとは状況が違うので、まったく同じとは言えないかもしれません。

それでも、スタッフが少しでも入力しなければならないのなら、やはり同じことが起きると思います。
AIがどれだけ賢くても、元になるデータを入れるのが人なら、その手間はスタッフの仕事として残るからです。

逆に言えば、ここにAIの本当の使いどころがあります。
写真を撮るだけ、話しかけるだけ、いつものチャットに書くだけ。
スタッフの動きは今まで通りのワンアクションのままで、記録や集計はAIが裏で引き受ける。
「スタッフの仕事を1つ増やすアプリ」ではなく、「スタッフの仕事を1つ減らす仕組み」にできるかどうかが分かれ目です。

アプリを現場に入れる前の、4つの問い

最近は、クライアントがアプリを作ったとき、現場に入れる前に次の4つを一緒に確認するようにしています。

1つ目。それは、全体の流れのどこを良くするものか。制約に効いているか。
2つ目。スタッフの手間は増えないか。ワンアクションでできるか。
3つ目。見る数字は、3つ以内に絞れているか。
4つ目。結果を誰が見て、何を決めるのか。作った本人は見続けるか。

アプリを現場に入れる前の4つの問い:制約に効いているか、ワンアクションでできるか、見る数字は3つ以内か、誰が見て何を決めるか

4つ目は、特に社長にとって耳の痛い問いかもしれません。
でも、数字を見て決める人がいなければ、その入力は誰の役にも立たないんです。

作る楽しさは、大事にしたい

作れるようになると、いろいろ試したくなる。
その気持ちは、私もよくわかります。
新しいものを作る楽しさは、これからも大事にしていきたいと思っています。

ただ、それを現場に入れるときは、一歩引いて全体の流れを見る。
「すごいですね!」の、その先まで考える。

あなたの会社のアプリは、スタッフの仕事を1つ減らしていますか? それとも、1つ増やしていますか?

動画でも解説しています

このコラムの内容を、ワビタン(我孫子)が大森社長と一緒に、8分の動画で読み解いています。

※AIの進化はとても速いため、少し前のコラムでは前提が変わっていたり、今では当てはまらない内容になっていたりすることがあります。すべての記事を常に最新に保つのは難しいため、取り入れるときは最新の情報もあわせて確認してください。ここでは、私自身が実際に試して効果があったことを、その都度お届けしていきます。なお、TOC(制約理論)の基本の考え方は、AIが進化しても大きくは変わりません。

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