新しいAIが出るたびに、何か作っている
仕事柄、新しいAIや新機能が出るたびに、いろいろなものを作らせています。
何ができるのか。どんなことが実現できて、それをクライアントにどう伝えられるのか。
それを確かめるためです。
アプリも、同じように作らせています。
実は、これは私だけの話ではありません。
クライアントの中にも、「こういうこともできる、ああいうこともできるなら、これを作ってみよう」と、どんどんアプリ作りに精を出す方がいます。
「これができるようになった」
「こんなことは、どうやればいいんだろう」
作れるようになると、あれもこれも試したくなる。
これはもう、人間の性なんだと思います。
そして私とは別に、実際の仕事に入れていくんですよね。
「すごいですね!」の、その後
作ったアプリを実務に投入して、スタッフにも「こういうのを作ったよ」と得意満面で見せる。
スタッフも「すごいですね、こんなことができるようになったんですか!」と驚いて、褒めてくれたりします。
では、実際に業務が動き出したらどうなるでしょうか。
実は、スタッフのやるべきことが1つ増えているんです。
アプリなので、パソコンを開かないと操作できない。
その作業だけを見れば、確かに速くなります。
でもTOC(制約理論)の目で見ると、業務全体がスムーズに流れているかといえば、決してそうではありません。
作業は速くなったのに、全体は流れない
TOCでは、仕事全体の速さは、いちばん詰まっている所(制約)で決まると考えます。
ほかの所をいくら速くしても、全体は速くなりません。
さらに困るのは、新しいアプリが「新しい作業」を連れてくることです。
入力する、確認する、数字を見る。
その手間が、もともと忙しい現場のスタッフに乗ってしまう。
すると、制約がさらに詰まってしまうことさえあります。

増えるのは、余計な分析だったり、過剰な数値管理だったり。
しかも、その分析結果が出ても、作った社長自身はあまり見ない。
「作って満足」で終わってしまうんです。
スタッフからすれば、誰も見ない数字を、毎日入力している状態です。
次第にやりたがらなくなり、最後は「やらなくてもいいもの」として形骸化していきます。
15年前、私も同じことをしていた
思い返すと、私自身も通ってきた道でした。
15年ほど前、ネットの似顔絵ショップを営んでいて、スタッフは15人ほどいました。
何かいいツールはないかと探していたころ、kintoneが発売されました。
Excelのようにノーコードで、こんなにいろいろ作れるのかと、発売されてすぐに契約。
業務のアプリを、どんどん作っていきました。
あちこちで細かな管理ができるようになって、「こんなに素晴らしいものがあるのか」と思っていたんです。
ところが、案の定、スタッフから不満が出てきました。
といっても、面と向かって言われたわけではありません。
いつの間にか、やらなくなっていた。そんな感じでした。
最終的にリーダーたちと話して出た答えは、意外なものでした。
「ホワイトボードで、目に見える状態にした方がはるかに効果があった」

何がいけなかったのか
今振り返ると、原因は2つあったと思います。
1つ目は、ワンアクションでできなかったこと。
いちいちパソコンを開いて、そのアプリを開かないと記録できない。
ホワイトボードなら、通りがかりにマグネットを動かすだけです。
現場の人にとって、この差はとても大きいんですよね。
2つ目は、管理するものが多すぎたこと。
TOCでは、見るところを絞り込みます。
たとえば生産管理の手法であるDBR(ドラム・バッファー・ロープ)では、見るのは「仕事を入れる所」「制約」「出す所」の3か所で十分とされます。
あれもこれも管理できるようになったことで、かえって大事な所が見えなくなっていました。
kintoneが悪かったわけではありません。
道具を入れる前に、「全体の流れのどこに効かせるのか」を考えていなかった。
それが私の失敗でした。
AIが管理してくれる時代でも、同じことが起きる
今は、AIが分析も管理もしてくれます。
あのころとは状況が違うので、まったく同じとは言えないかもしれません。
それでも、スタッフが少しでも入力しなければならないのなら、やはり同じことが起きると思います。
AIがどれだけ賢くても、元になるデータを入れるのが人なら、その手間はスタッフの仕事として残るからです。
逆に言えば、ここにAIの本当の使いどころがあります。
写真を撮るだけ、話しかけるだけ、いつものチャットに書くだけ。
スタッフの動きは今まで通りのワンアクションのままで、記録や集計はAIが裏で引き受ける。
「スタッフの仕事を1つ増やすアプリ」ではなく、「スタッフの仕事を1つ減らす仕組み」にできるかどうかが分かれ目です。
アプリを現場に入れる前の、4つの問い
最近は、クライアントがアプリを作ったとき、現場に入れる前に次の4つを一緒に確認するようにしています。
1つ目。それは、全体の流れのどこを良くするものか。制約に効いているか。
2つ目。スタッフの手間は増えないか。ワンアクションでできるか。
3つ目。見る数字は、3つ以内に絞れているか。
4つ目。結果を誰が見て、何を決めるのか。作った本人は見続けるか。

4つ目は、特に社長にとって耳の痛い問いかもしれません。
でも、数字を見て決める人がいなければ、その入力は誰の役にも立たないんです。
作る楽しさは、大事にしたい
作れるようになると、いろいろ試したくなる。
その気持ちは、私もよくわかります。
新しいものを作る楽しさは、これからも大事にしていきたいと思っています。
ただ、それを現場に入れるときは、一歩引いて全体の流れを見る。
「すごいですね!」の、その先まで考える。
あなたの会社のアプリは、スタッフの仕事を1つ減らしていますか? それとも、1つ増やしていますか?
動画でも解説しています
このコラムの内容を、ワビタン(我孫子)が大森社長と一緒に、8分の動画で読み解いています。


